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2024/02/07 20:20

1ヶ月あった神田ポートでの個展期間。なんだかあっという間で、来週月曜(2/12)が最終日です。
時間の流れの速さにゾッとしますが、そんなオッサン化に抗うかのような今回の展示タイトル、元気な鉄。ここらで色々振り返りながら、元気にラストスパートをかけてまいります。

12年振りの個展。

ゾッとすると言えば何と言っても、個展ご無沙汰期間。体感的には7~8年くらいかなーなんて思っていたけど、改めて数えてみたら12年経っていて背筋が凍りました。干支が一周しちゃったこの間、もちろん制作をサボっていたわけではありません。
この12年間は、地域活性を目的とした芸術祭や、ホテルやマンション、商業施設、保育施設などへのコミッションワーク、いろんなシチュエーションでのワークショップなど、仕事の幅を広げていった時期でした。そこには共通して、アートの居場所を広げたいという願いがあります。
大学を出てからしばらく、自分は予備校・美大の仲間や好意的なお客さまのコミュニティ内でよろしくやっていましたが、端から見ればこれって内輪ノリだったのかも知れません。30歳の時に初めてパブリックアートを作った時、制作過程でいろんな立場の方と交わる際に、いわゆる「美術系の価値観」が通用しない場面が多々あって。最終的に作品自体はうまく納まったのだけど、途中段階では肩身の狭い思いをたくさんした記憶があります。でも、「これから経験を重ねて行くうちに、周りが自然と変わりますよ」って某ギャラリストの方からアドバイスをもらい、おかげであまり恐れずに仕事の振り幅を大きくしていけました。今現在、まだまだ広げ足りないぞといった感じですが、あのアドバイスは本当だったという実感はあります。

と同時に、鉄の居場所も広げねば。

鉄スクラップを作品化していく手法は、まずは廃品を分解する工程から始まります。そうすると、つくづく思います。この素材は守備的な選手のようだと。例えば建物の鉄骨とか、電化製品の内部構造とか、見えないところで縁の下の力持ちとしての役どころが多い鉄材。でも毎日この素材をいじくり回して、その魅力や奥深さに触れていると、これは縁の下だけじゃもったいないぞと感じ始めるのです。もっと攻めていこうぜと。
これが現代サッカーの世界ならば、守備的選手の攻撃参加はもはや必須。タケや三苫にボールを預けて後はよろしく~などとやっていたら、ラインが間延びして相手にことごとくセカンドボールを拾われ、ジリ貧が始まります。ああ悔しい。※アジアカップ敗退直後にこの記事を書いてます。
で、鉄にも同じことが言えるんじゃないかと。この素材は守り役だから~って縁の下に居座るだけだと、いずれその地位すらも失っていく…これはすでに現実に起こっています。長年いろんな廃材を分解していると、かつては鉄で作られていた部材が、樹脂やアルミ等に替わっている事に気付きます。
そんな状況下でも鉄の魅力を引き出せる活路が、熱間鍛造でした。鉄は熱いうちに打てというやつです。紀元前2500年から始まった熱間鍛造は古き良き技と見られがちですが、実は現代でも生き残ってる技法。叩かれてのびのびとした鉄の表情は、まるで生きているかのように見えます。隙あらば彼らは縁の下から顔を出し、時には空間の最前線で躍動し始める…そう、あの左サイドバックのように。


歳を重ねて走力が衰えても、長年代表に求められ続けた男。鉄素材も世の中で、こういうブラボーな存在にさせたいと思っています。そんなわけで、鉄の居場所を広げるための元気。オッサン化に抗うための元気。そしてご無沙汰してしまった方々へ、こちら元気ですと伝えたい。願いは全部、金槌で鉄に打ち込んでおきました。

展示作品を一部ご紹介します。

叩いて伸び伸びとした鉄と、堅牢性を活かしたシャープな鉄。椅子も作品です。ぜひ座ってみて下さい。

丸テーブルはコンセプトボードを兼ねています。真ん中に置いた円形のポストには、ご芳名やお名刺を。芳名の文化は好きなので残しながら、個人情報もしっかり保護。

このPLANETシリーズを作り始めたのは14年前。当時は「キタ!」という実感を持てた一方で、その後何を作ったら面白いのか?ちょっとわからなくなりました。でも、仕事の振り幅を広げ始めたのもちょうどこの頃からで、おかげで視野が広がってスランプに陥ることもなかったです。

CDサイズのこの作品は直径12cmです。キーヴィジュアルにもしてる一番大きなDISCは直径1.2m、個展は12年振り、最終日は12日。偶然にも12という数字が重なりました。重なり記念に雑学をひとつ。CDの規格がなぜ12cmかというと、(開発された当時の技術で)12cmは75分の音楽を収録できるサイズだから、だそうです。CDはPHILIPSとSONYで共同開発されたもので、その開発中に議論が勃発。PHILIPSの「キリ良く60分収録できる11.5cmにすべきだ」という主張に対して、SONYは「いや、ベートーベンの第九(74分)が収録できるサイズだ。ここは絶対に譲れん。」と。最終的にSONY案の方が通った理由が説得力なのか政治力なのかはわかりませんが、12cmになったおかげで僕も寸法計算が楽になりました。

オザは大きな作品ばかりになっちゃったから…との声を時々聞きますが、基本的に大きな作品も、小さなピースをつなぎ合わせて作っています。すなわち小さな作品も作れます。余談ですが学生の頃、恩師・井尾建二先生がデモンストレーション中に、「えーとヤスリは…あれっ、なんだこんなちっちゃいのしかないのか。…まあいい、小は大を兼ねるから。」と独り言。小は大を兼ねるというのはなんだか工芸家の精神性を表しているようで、とても印象に残っています。

余談だらけの文章になってしまいましたが、展示空間はいい感じに見やすくまとまっております。ぜひ、足を運んでいただけますと幸いです。詳細はこちら


ワークショップ「鉄に触れる」

展示期間中の2月3日には、ワークショップを催しました。株式会社ゆかいが企画する「触れるシリーズ」というものがあり、本ワークショップもその一環です。

ゆかいが撮影・デザインしてくれたキーヴィジュアル。鉄ピースはこちらで作って見慣れたものだけど、とても新鮮でワクワクする仕上がりに。だいぶ早い段階で予約が埋まったのは、これのおかげだと思います。さすが。
尚、今回の材料は3年前に金沢で集めたものです。大きな作品を作り、その端材がたくさん手元に残っていました。そして、元旦に発生した能登半島地震。あの端材たちを活かすなら今だろうと感じ、ワークショップの収益を義援金として寄付することにしました。

ぐるぐる回るアルミの回転台(φ1200)に、あらかじめ叩かれた鉄の端材を並べる。参加者は好きなものを好きなだけ取り、自由に「生き物」をイメージしながら手元に並べていきます。

…を、溶接でつなぎ合わせる。
基本はこちらで溶接、参加者も少し溶接体験。「叩く」とはまた違う、鉄のリアル体験です。
青い光がギャラリー空間に広がり幻想的…かどうかは、見えないのでわかりません。

そして、仕上げに磨いて蜜蝋を塗って完成!
元気な力作がたくさんできました。大成功です。



すごく元気な1日。身体の疲れも心地良いくらい。

みなさん予想以上に作るのが早くて、ひっきりなしに溶接オーダー到来の図。僕はずっと溶接工としてこの作業台にこびりついてましたが、お客さんが待ちぼうけにならないように、ゆかいの2人が軽快なトークで場を繋いでくれました。さすが上手いなぁ、助かった。そんな彼らは「オザの展示に来るお客さんて、全員キャラが濃い」と笑ってました。
濃い皆様方へ、心より御礼申し上げます。またいつか、こういうのやります。

追記:無事に会期終了いたしました。お越し頂いた皆さま、応援して下さった皆さま、ありがとうございました!