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2021/03/23 14:02


鉄の道具を、真っ赤に熱して柔らかくする。
金槌でひたすら叩き、ぺちゃんこにしていく。
加熱された痕跡は、素材の体温。
叩かれて波打った表情は、素材の脈拍。
均一な形だった工業製品が個性を持ち始め、生物のように有機的な姿となる。


という手法を編み出したのが20代の頃。気付けば15年が経ちました。
長年やってると道具叩きが当たり前になりすぎて、うっかり初心を忘れてしまったり、バリエーションが増えて思考が散らかってしまう時があります。なので一旦これまでの経緯を整理して、文章化しておこうと思います。これから出会う人への自己紹介も兼ねて。


鉄での作品制作はもっと前からやっていたのだけど、自分のイメージ通りにしかモノが出来上がらなくて、ちょっと退屈してた頃がありました。これは単に見識が狭いだけで、インプット(いろんなものを見たり経験したり)が足りないとそうなるというのは今だからわかる事です。
そんな時期に、ひとつ一斗缶を捨てる為に、小さくしようと金槌でグシャッと叩いた事がありました。目の前に現れた物体は、自分の知らない謎の形。丸でも三角でも四角でもない奇怪なフォルムが面白くて、今度は使い切ったスプレー缶をかき集めて全部叩いてみました。そうすると、元々同じ形だったスプレー缶がひとつひとつ違う輪郭になり、違うシワが産まれるわけです。まぁそりゃそうだと納得しつつも、これまでの退屈感を抜けられる気がして、日常生活で鉄の廃材が出るたびに、とりあえず潰してみることにしました。



この時点では作品というより単なるお戯れだったのだけど、程無くして展示会のお誘いが。会場は代官山のオシャレな北欧家具屋さん。そこにスクラップを叩いただけの物体を出しちゃおうかいやいやマズいだろう興味と怖さの間で揺れながらも、結局興味が勝って初出ししてみました。そこで上々の評判をもらえて勇気が湧いて、これはいっちょ本腰入れてやってみよう!と。
「まずコンセプトやメッセージがあって、それを表現するために作品を作る。」
というのが表現者の正攻法だとすれば、僕の道具叩きは順番が逆だったんです。先に手を動かし、後で自分のした事は何だったのか?を検証し、言語化していきました。

正攻法とは逆と言ったけど、考え無しに動いて何かやらかして、誰かに怒られるタイプだった人は共感してくれるかも?



飽きっぽい自分でも続けてこれたのは、発表する場にバリエーションを持てたからです。ギャラリーのような作品のみが存在する空間だけでなく、商業空間、公共空間、オフィス、保育園、個人邸など、様々な場所で展示や設置をさせてもらい、これは本当に幸運なことでした。シチュエーションが異なると、制作のプロセスは似ていても、重点を置くポイントが変わってきます。材料集めが最重要な時もあれば、表面仕上げが最重要な時もあります。場に応じてチューニングを変えることが、結果的に長く続けられる秘訣になりました。


色々やった中で特殊なチューニングをひとつ挙げるならば、瀬戸内国際芸術祭で作った「舟底の記憶」です。公開したのは2013年ですが、設置を制作のゴールではなくスタート地点としています。成長する彫刻と銘打って、定期的に現地を訪れ、みんなで鉄を叩き、作品に溶接していくプロジェクト。恒久設置というよりは恒久制作の作品で、できるだけ長く続けていくことに重きを置いてます。設置から8年経ちましたが、地元の方々のサポートのお陰で今も恒久制作は続いています。



たくさんの道具を叩いていくなかで、叩いたらどんな形になるか、ある程度予測できるようになりました。これにはメリットとデメリット、両方あります。
まずはメリット。予測できるということは、具体的な完成予想図を描けるし、予算や制作時間がどのくらいかも算出できます。となると大掛かりなプロジェクトも実現可能。「道具叩きも仕事として成り立つぞ」という実感が湧いてきたのは、ちょうどこの頃です。
デメリットは、予測できてしまう退屈さ。これまで作業中に起こっていた予想外の出来事が無くなってしまうと、作者自身が新鮮でいられなくなるので、野放しにできない問題です。ここを打開してくれたのが、他者に叩いてもらうワークショップでした。老若男女・十人十色の叩き方は鉄を色々な表情に変えてくれるので、その度に自分もリフレッシュできます。
そしてもうひとつ、退屈打開策でうまくいったのが、叩いた後の再構築です。叩いて産まれた多くの「有機的」をつなぎ合わせて、新たなイメージを作り出すことを始めました。これまで作ったイメージは、植物、動物、岩、アルファベット、象形文字などなど。いずれも組み合わせた際に予想外の発見が楽しめるので、まだまだ新鮮な気持ちで続けられそうです。


* * *

・叩いた「だけ」の作品は原点。形を作るのではなく探すことに徹する。
・再構築した作品は応用編。原点を活かし、新たなイメージを作り出す。

こんな具合に、鉄叩きシリーズをスッキリと分類できるようになりました。

・左の写真は潮見のホテルに、造船にまつわる鉄の道具を叩いた作品。
・右の写真は金沢のホテルに、現地で集めた鉄の道具を叩いて、松の木に再構築&表面に金箔を貼った作品です。
偶然にも同時期に異なる場所に、原点と応用編、それぞれを突き詰めた作品を設置してきました。ふたつ並べると、方向の違いがくっきりと見えてきます。



熱して叩くというのはとても単純な行為ですが、どれだけ熟練した作り手でも、コントロールし切れない部分が必ず存在します。そこに自分以外の何かが入り込む余地があるんじゃないかな、と。例えば予想外の形や色だったり、経年変化だったり、他者の手だったり。道具叩きをやってきた15年を振り返ると、こういった他者との関わりが、大きく道を広げてくれました。
そして、まだ見た事のない「自分以外の何か」に出会う為に。もう一度初心に返り、ひたすら手を動かして、その後で検証する。このプロセスを大事にしようと思っています。